学生時代に一番興味を持った臓器が心臓でした。すべての動物が同じように鼓動し、より命に直結する臓器ということで、心臓が治療できる医師になろうと思ったのと同時に、直に患者さんから感謝の言葉をいただけるのも魅力のひとつだとも感じていました。心臓を治療する診療科として、主に循環器内科と心臓外科があり、当時はどちらに進むかを悩んでいました。同じ治療をするにしても、やはり手術ができる、自らの治療が実感できる仕事がしたいと思って、心臓外科を選んだのを覚えています。心臓外科を選ぶことに悩む人も多く、責任やプレッシャーを感じてしまう方や、手術時間が長いため体力に自信がないと言う方もおり、最近は志望者数も外科全体で減っています。しかし、私はそれらを逆手にとり、だれもやりたがらないからこそ、やりがいに深みが出ると考えました。実際、最近の手術はそう長い時間ではありません。
心臓外科の治療領域は「心臓弁膜症」「虚血性心疾患」「大動脈疾患」「先天性心疾患」「重症心不全」の5つの領域に分けられます。この中でも名大病院は特に、大動脈疾患の手術が多いのが特徴で、重症心不全をはじめとした難易度の高い手術ができるのが名大病院の強みだと思います。我々の領域は未熟児から高齢者まで、幅広い年齢層にも対応しています。心臓には悪性腫瘍が極めて少ないため、手術をして、治療が良い方向に進めば、患者さんは確実に元気になります。現在の手術全般に言えることですが、ガイドラインやエビデンスに基づいた「裏付けのある」治療法・手術方法をとります。加えて我々のベストの医療を提供すべく、自身のエビデンスに基づく外科治療を選択し、患者さんに対峙する医師が求められます。しかしだからといって、心臓手術は独断で成功するものではありません。各診療科の医師や麻酔科医、臨床工学技士、看護師などチーム全員で協議をして、その患者さんに合わせた治療方法や手術方法を決めていきます。さらに心臓外科医は、執刀医としてチームをまとめるリーダーシップ能力も必要だと思っています。
私は大学病院の心臓外科医として、臨床と研究・教育をバランスよくとって医師生活を送っています。研究に関しては、心臓外科治療は解決しなければいけない問題が山積みです。名大内の他学部や研究機関と連携して行う研究もあり、現在は人工臓器や心臓外科手術材料の開発を他施設で共同研究しています。一人でも多くの患者さんを救命をするため、少しでも安定した手術が行えるために、研究が終わることはありません。最終的に自身が開発した機器やエビデンスで、患者さんを助けることができれば、これほどうれしいものはないと考えています。医局長としては、医局をまとめる役割をはじめ、教育にも力を入れています。若手をはじめ医師それぞれに夢や希望があると思うので、患者さんはもちろん、医師自身もクオリティ・オブ・ライフの向上が実現できるように努めています。
1993年、愛知医科大学卒。大垣市民病院で外科研修を行い、研修を含めて7年間勤める中、名古屋大学胸部外科(現心臓外科)に入局。その後、名古屋大学大学院へ入学。臨床心臓外科手術だけでなく、心臓外科領域の研究にも従事し、現在は医局長として、医局をまとめる役目も担っている。