特殊な仕事。私は中学生くらいのとき、医師という職業に対してそんなイメージを持っていました。狭い領域のスペシャリストになるということに、当時から魅力を感じていたのかもしれません。その後医学部に進み、自分の進路を決めたのは実習をしていた時でした。6週間の内科診療を経験し、内科医はありとあらゆる患者様の訴えをどの科の医師よりも早く聞くことができるのだと感じました。そして、訴えの原因を絞り込んでいくのですが、とにかくその過程が好きになってしまったんです。所見やヒアリングしたときにお話しいただいた内容から診断に結び付ける。いくつもの手がかりを「点」とするならば、それらを「線」でつないで答えに近づいていくプロセスに魅力を感じました。中でも内分泌疾患のひとつである糖尿病は、患者様の数が潜在的には2000万人くらいいるといわれているにもかかわらず、診療形態が特殊でやりがいがあると感じました。
実を言うと、実習に行くまでは外科医を希望していました。でも、糖尿病・内分泌内科の分野は学生時代に勉強した中では一番難解で、生涯を通して突き詰めていくのにふさわしい分野だと思いました。また、そうやって長い目で考えたら、訴えを解き明かすプロセスを自分なりに勉強して習得していくことも苦ではなくなりましたね。
研修医時代は大学病院のようにマンパワーがある環境ではありませんでしたが、指導を担当してくださる先生が疑問点を質問に行くと丁寧に対応してくださいました。そうやってコツコツと診療力を上げながら、徐々に患者様を担当させていただけるようになりました。診療において大切なのは、自分自身の力だけでなく、患者様が持つ力を引き出すこと。これが、この分野の医師にとっていちばん大変で、同時にいちばんの喜びとなるんです。内分泌臓器に異常があるとき、この原因を特定するためにはさまざまなアプローチが必要で、その度に患者様の協力を得なければいけない。とても根気がいるんです。自分自身もそうですが、患者様も気持ちを一緒にして耐え抜いてくださったときには大きな感動が待っています。
その後、私は大学院での生活とボストンの大学への留学を経験したことで、新薬を有効に使いこなせる治療法をもっと社会へ広めていきたいと思うようになりました。私の専門はエネルギー代謝の分野で、例えば、食欲のコントロール異常により肥満がなぜ起きるのかといったメカニズムを解明しようとしています。こうした研究の過程で最新の治療法を習得できれば、医師として患者様と向き合う時に治癒に向かうまでの選択肢をもっと広げ、それぞれの手技も洗練されたものにすることができる。これはとても価値のあることだと思います。また、逆に、臨床の中で疑問に思ったことも、自分で調べて解決する術も身につく。研究と臨床は切っても切り離せない関係にあると思います。私たちの医局でも年に1、2名は海外の医療機関へ留学しますし、最新の治療法を身に付けようと、グループごとに研究テーマをもっています。それぞれの医師が自分の医師人生を長い目で見てやるべきことを決められるように、私は医局長としても貢献していきたいと思っています。
1999年、名古屋大学卒。愛知県厚生連昭和病院(現・江南厚生病院)にて研修後、新城市民病院への赴任をへて名古屋大学大学院に入学。博士研究者としてボストンへの留学を経て、2011年より教員として、診療、研究、教育を担当している。2016年10月からは医局長として医局運営に携わり、働きやすい環境づくり、充実した教育体制の構築に力をいれている。