医学部を目指したきっかけは、人を救いたいとか、手術をしたいとか、様々だと思いますが、私の場合は脳のもつ多様な働きに興味があったからです。初期研修中には当時の脳外科の先生方が直接的な手術を通して脳にアプローチしている姿を間近で見て、やはりこの分野に進んで脳を深く掘り下げようと心に決めました。
実際に医師として患者様を診る中では、「まだ分かっていないこと」が他の分野に比べて圧倒的に多いと実感しました。治療としてのエビデンスはある程度存在するけれど、そもそもなぜ左側に言語中枢があるのか、とか、本質的な部分がとってもミステリアス。学べば学ぶほど、深く知りたいと思うことだらけでした。そういったこともあり、医師の卵の頃から、深く調べるという研究者的な行動と、臨床でじっくり観察するという外科医としての行動の両立は大切だと考えてきましたね。
私の専門は機能的脳神経外科といって、脳腫瘍や脳卒中と比べるとなじみが薄い分野だと思います。パーキンソン病やてんかんを患う患者様は、投薬治療ではなかなか完全治癒が難しく、日常生活に支障をきたしていることが多いです。そうした方々にできるだけ負担のかからない手術をしてQOLを向上させることを目指しています。2011年、名大病院の脳神経外科はアジアで初めて定位脳手術支援ロボットneuro mateを導入しました。そういった最先端の技術を駆使して脳のいろいろな働きや状態を描写し、手術を確実で安全に行うことにやりがいを感じます。同時に、それらの技術を習得しながら、脳のより深い部分まで解析していくことで、学生時代から興味があった脳のメカニズムを解明してくことにも面白さを感じています。また、他の専門分野の先生とコラボレーションすることも、最近は多いです。例えば今「脳と心の研究センター」の先生と一緒に脳科学と手術を結び付けた研究をしています。このセンターでは医学や環境学、教育学など多彩な分野の専門家と一大コンソーシアムを形成。それぞれのアイデアや理論が交わることで相乗効果が発揮できるため、これからますます力を注いでいきたいと考えています。
今は名大医局の中でも年齢が上の方になってきて、大学院で学んでいる先生方とは10歳くらいの年齢差があります。自分が興味をもってこの分野で学んできたことを伝えたいと思います。また、個々に趣向は異なると思うので、それぞれを尊重していける医局の雰囲気をつくりたいと思います。また、多くの先輩がいるのがこの医局の特徴で、同門の人数も300人ほどになります。先輩方が築き上げたエビデンスを大切にしながら、まだ開拓されていない分野にも積極的に挑戦したい。特に目まぐるしく進化する、脳神経画像診断技術やコンピューター外科手術に対してはどん欲に学んでいきたいと思っています。
1999年、名古屋大学卒。脳神経外科専門医取得後、サブスペシャリティとして機能的脳神経外科手術に継続して携わる。2014年4月より病院助教として赴任し、2016年より病院講師、機能的脳神経外科グループの責任者に。また、若手スタッフには専門医の取得をサポートしながら、脳や神経に関わる分野の多様性やその面白さも伝えていきたいと考えている。