研究が好き!LOVE LAB 基礎医学研究者育成プロジェクト 名古屋大学医学部学生研究会

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2014.09.17
論文

6年小澤慶さんの研究室訪問報告

プロセスを大切にし、科学に対し謙虚であれ


基礎医学研究者育成プロジェクト 平成26年度研究室派遣 活動報告

名古屋大学医学部医学科6年生  小澤 慶



SUMMARY

佐谷研究室では現在主にがん幹細胞の研究を行っており、先端的な基礎研究で培った知識と技術を臨床医学に応用している。今回私は二ヶ月間滞在させて頂き、様々なことを学んだ。明るい雰囲気と共に白熱した研究室の雰囲気が、激しい競争のなかで世界を牽引する研究に繋がること。一見結果が出そうになくとも、プロセスを大切にする姿勢。最先端の技術や臨床を見据えた基礎医学研究の進め方。毎日とても良い刺激を受け、興奮する研究室訪問だった。

 

INTRODUCTION

慶應義塾大学医学部先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門(佐谷秀行教授)ではがん幹細胞の研究を行っており、これまでに人工がん幹細胞の樹立に成功している。この人工がん幹細胞と動物モデルを用いてがんの発生や転移のメカニズムを詳細に解析し、分子レベルで明らかにしてきた。さらにがん幹細胞の治療抵抗性メカニズムを明らかにすることで新たながん治療戦略を考案し、現在では癌創薬研究を行っている。


佐谷研究室は信濃町キャンパスのリサーチパークと呼ばれるところにあり、総ガラス張りの研究室だ。慶應義塾大学といえど東京ゆえ空間が限られており、人の多さもあり様々な密度が高かった。大学院生の個人デスクはパソコンを置き、実験ノートを開いたらそれでおしまいなほどである。その分実験室は整然と機械が置かれ高度な工夫で、実験に差支えはない。

 研究室では佐谷教授をはじめ、約10名のスタッフの方々、20人以上の大学院生の方々、そして沢山のテクニシャンの方々が働いており、平日は勿論のこと土日も電気が消える時がないのではないかと思える。同じフロアの隣は幹細胞研究で有名な研究室があり合同で論文抄読会などを開いている。佐谷研究室以外にも慶應義塾大学には大きな研究室が沢山あるのはご存知の通りであり、リサーチパーク内にある共同で利用できる設備なども充実している。


 このように圧倒されるような環境のなかで、どのように世界と日々競争しながら研究が行われているのか。「東京・有名な研究室・ピリッとした雰囲気で息も出来ないのではないか」と勝手な想像をしながら上京した私は、佐谷研究室の素敵な雰囲気に帰りたくないほどで派遣最終日のギリギリまで居候させて頂いた。


(A)

(B)

Figure | 6年次臨床実習Ⅱにおいて基礎系での実習を選択し、佐谷研究室にお邪魔させて頂いた。

(A) リサーチパーク内、オレンジ色の建物が研究室のある総合医学研究棟。

(B) 自分のベンチの前で。人工がん幹細胞の分化誘導実験や分化能評価実験などを教わった。




RESULTS


和気藹々とした雰囲気が、ラボ全体をアツくしている。


 佐谷研究室の毎週月曜日は美味しいタイカレーの日。私はメーヤウ マン(お店の名前がメーヤウ)としてラボの人たちに注文を聞いて回りテイクアウトしてくる大役を任され、そのおかげで早くから顔と名前を憶えてもらえた。研究室中にカレーのにおいが充満するが教授も食べていらっしゃるからお構いなし。皆で辛い辛いと言いながらのランチは、明るい和やかな雰囲気だ。常時20人以上がベンチで実験をしているので当然ながら培養室などは予約でぎっしりだが、お互いに笑顔で譲り合うなど皆が素敵な雰囲気で一体となって仕事を進めている。驚いたことにラボ全体でのミーティングはない。しかしこの雰囲気のおかげで日常的にラボの中で互いにディスカッションをし、研究をより良いものにしていることがとても印象的だった。


 


多様な専門分野の人が集うことで、がんを理解する。


 人工がん幹細胞により様々な腫瘍モデルを樹立した佐谷研究室では、脳腫瘍や造血器腫瘍、骨肉腫、乳癌、卵巣癌などの研究の一方、他方ではがん幹細胞マーカーや細胞周期、メダカを用いた癌モデルなどをテーマに研究を行うなど、様々な分野の研究者がいた。週毎のジャーナルクラブはあっという間に一時間半を超えるほど内容の濃い白熱したものであることは言うまでもないが、「~の癌ではどうなんですか?」とか「私たちのところの癌では少し違いますね。」など、各分野の視点が加わり、がんの全体像を知ることができた。個人として専門分野を持つことと同時に物事を俯瞰することの大切さを学んだ。


 


刺激的な環境が、義塾の財産だ。


 実験を行う合間に、大学院や学部生の講義を聴講させて頂いた。福澤諭吉の『実学の精神』が宿る講義はとても刺激的で、医学部2年生の分子細胞生物学ではカドヘリンを発見された先生ご本人が培養細胞のトリプシン処理の原理をお話して下さったり、貝淵先生が話される細胞骨格や、いま日本でノーベル賞に一番近いと言われている先生から直接オートファジーの研究を学ぶことが出来たりと、一流の基礎研究者の講義を受けることができ大変興奮した。また医学部には『基礎医学・臨床医学に集うものが一家族のごとく』との北里柴三郎の教えがある。臨床を見据えた研究について佐谷先生からお話を伺い、治療や創薬を目指した臨床マインドを持った基礎医学研究を垣間見ることが出来た。佐谷研究室で配属された信末博行先生のグループでは、治療することを考えた上での研究を体感できた。基礎医学のコンセプトを臨床に生かすそのプロセスに、短い間だったが携われた経験はまたとない貴重なものであった。


 


CONCLUSION


がん幹細胞マーカーCD44の研究が長い年月を経て創薬につながった話の中の「どんな時もプロセスを大切にすること、科学に対していつでも謙虚でいることがとても大事」という佐谷先生の言葉がとても印象的であり感動した。私も好奇心や謙虚さを持って物事を深く知り、そのプロセスを大切にすることが出来る人間となりたい。今後どのような道に進むにせよ、今回の経験を活かし何らかの形で人の役に立つ仕事をしたいと思う。


 


ACKNOWLEDGMENTS


最後になりましたが、今回無理なお願いを快く承諾して下さり素晴らしい機会を与えて下さった佐谷秀行教授、丁寧に実験を教えて下さり研究の面白さを教えて下さった信末博行先生、私のわがままな予定に合わせ一緒に実験をして下さった高橋信博先生、温かく迎えて下さった佐谷研究室の皆さんに心から感謝いたします。またお忙しい中お話し下さり紹介して下さった名古屋大学の貝淵弘三教授、事前にご指導下さった天野睦紀先生、的確なアドバイスを頂いた榎本篤先生、木村幸司先生、渡辺崇先生、加藤勝洋先生、黒田啓介先生、今回の派遣の準備をして下さった学生研究会の安部小百合さん、支えて下さったすべての方々にお礼を申し上げます。ありがとうございました。



佐谷研究室訪問報告.pdf