名大病院の医局情報

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連絡先
責任者:石本 卓嗣
TEL:052-744-2192
E-mail:i-takuji@med.nagoya-u.ac.jp

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概要

腎臓内科の関わる領域 腎臓内科は専門性を持った総合内科

腎臓は体の恒常性を保つ臓器です。すなわち、他の臓器が破綻をきたした時に影響を受けやすい臓器と言えます。高血圧、動脈硬化、肥満、糖尿病など、いわゆる生活習慣病では、最終的に腎臓が悪くなります。また、腎炎・ネフローゼ症候群なのどの診療では腎生検の診断から治療まで、つまり病理医の役割から生物製剤や免疫抑制薬を用いた専門的治療までを担当します。また全身性エリテマトーデスをはじめとする膠原病も診療対象です。腎臓が悪くなった後も、血液透析、腹膜透析に加えて、腎移植にも腎臓内科医が関わります。このような慢性疾患だけでなく、敗血症や急性心不全などの急性疾患などによる急性腎障害や、水・酸塩基平衡・電解質異常も腎臓内科医の力が試される疾患です。したがって、腎臓の疾患を知っているのは当然ですが、他臓器の病態も知っていなければ適切な治療はできません。このようなことができる一人前の腎臓内科医とするために、名古屋大学腎臓内科学講座は教育、臨床、研究をバランスよく行っています。まず、教育では腎臓内科専門医育成するための教育プログラム(NNFP)を全国に先駆け立ち上げ、今までに数多くの専門医を輩出しています。さらに磨きをかけるために、臨床においては関連病院から送られてくる症例を併せると年間800例以上の腎生検病理組織を実際に見て勉強することができます。また、新たな免疫抑制療法などにも取り組んでいます。当然のことですが、診療の際には、患者様の状態や、必要な検査・治療について、わかりやすく説明を行い、特に治療については、正確な根拠に基づいた情報を慎重に検討してから、患者様とご家族に対して、十分理解を得た上で実践することをモットーとしています。研究部門においては、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)・IgA腎症・ネフローゼ症候群・ループス腎炎・血液透析・腹膜透析・腎移植の臨床研究やメカニズムの解明および新たな治療法の開発や急性腎障害(Acute Kidney Injury:AKI)の新たなバイオマーカーの開発などに取り組んでいます。このような研究をすることにより、更に多くの患者様の治療の手助けになると考えています。

名古屋大学の強み

年間入院患者432人、腎生検病理診断数805人(附属病院89人・関連施設716人)、年間述べ血液透析施行件数2724件、新規透析導入患者68人(血液透析54人、腹膜透析14人)、PD+HD併用療法5人、その他血漿交換療法や選択的血球成分吸着療法など延べ血液浄化回数2851人回と多彩な症例に触れることで、腎臓内科診療に対する知識の向上を望むことができます。また難治性ネフローゼ症候群・膠原病・遺伝性疾患などに対する短期ステロイド導入、リツキシマブ、ミコフェノール酸モフェチル・タクロリムスなどによる新たな免疫抑制療法、生物製剤やαグルコシダーゼ補充療法、バソプレシンV2受容体阻害薬など、大学病院ならではの先進的治療にも積極的に取り組むだけでなく、臨床研究を通してエビデンスの創出に積極的に取り組んでいます。

腎臓内科の未来像 腎臓内科は専門性を持った総合内科

名古屋大学腎臓内科では、現在オールハッピー計画を推進中です。大変厳しい医療情勢の中、個人の力では限界があります。こうした時だからこそ、若手医局員ひとりひとりが楽しく有意義な臨床研修を行い、優秀な腎臓内科専門医に成長して行けるよう、医局を挙げて支援して行きたいと思っています。腎臓内科に少しでも興味を持たれた方は是非とも一度御連絡ください。

医局紹介

医局長からのメッセージ

腎臓内科医は、患者さんの検査結果から、腎臓の機能不全なのか、それとも炎症などの障害により腎臓に障害が起こっているのか、状態を的確に見極め、特には病理所見を参考にして治療法を組み立てていくところが醍醐味だと思います。他科の先生方にとって、腎臓はイメージしづらい臓器です。ですから私たちは、腎臓の状態がよくない患者さんが一般的な病気にかかったときの診療に関わることも多くあります。活躍の場が、サブススペシャリティーとしての腎臓内科からジェネラリストまで多方面にわたっているといえます。私たちの医局は研究にも力を入れており、帰局してから3~4年間は診療以外の環境で医療を見つめる機会を持っていただきます。腎疾患がどのようなプロセスで起こっているのか、基礎・臨床研究を行うことで、そこで得た知見やエビデンスを臨床に還元することができます。また、私たちは独自の専門医養成プログラム「名古屋腎臓内科専門医養成プログラム」(NNFP:Nagoya Nephrology Fellowship Program)に基づいて後期研修を行っています。名大病院と関連病院が一体となって運営・実践しており、若いチカラを伸ばそうという風土があります。今後は高齢患者や糖尿病など生活習慣病の増加に伴い、腎臓内科医のニーズはさらに高まると予想されます。我々とともにこの分野でチャレンジしたいと考える方々と共に、医局をさらに盛り上げていきたいと考えます。

医局のアピールポイント 当講座では優秀な若手腎臓内科専門医師の養成を総合的に支援する体制を整備しています。

1) 名古屋大学腎臓内科は全国国立大学の中でも数少ない腎臓内科学教室として発足し、愛知県内はもとより、岐阜県・三重県・静岡県含めた多くの関連病院に人材を輩出しております。

2) 腎臓内科専門研修プログラム(NNFP; Nagoya Nephrology Fellowship Program)
全国に先がけて、大学病院と関連病院で共通の専門医養成プログラム「名古屋腎臓内科専門医養成プログラム(NNFP)を作成し注目されています。プログラムは原則初期研修終了後からの3年間。参加者は共通カリキュラムや目標症例、達成度自己評価表などが入った電子研修手帳を配布されます。研修先病院での臨床研修記録の提出と、年2回のワークショップへの参加により、NNFP修了証が与えられます。詳細はHPを参照下さい。

3) 幅広い臨床経験に加え、基礎研究・臨床研究の両面で最先端の研究に携わることができる

4) 腎臓内科医、腎臓研究者としてのスキル・アップをサポートする海外の研究施設への留学支援
これまでに米国(ハーバード大学、コロンビア大学、ペンシルバニア大学、ジョンズ・ホプキンス大学、UCSF、UCSD、NIH、コロラド大学、オハイオ州立大学、フロリダ大学、シカゴ大学、ニューヨーク大学)、欧州(イギリス、オランダ、スイス、ドイツ)の研究・臨床施設に留学の実績があります。現在6名が留学中。

5)女性医師に対するキャリア継続・再開支援

医局の雰囲気 腎臓だけでなく全身を診ることが勉強になる。

(後期研修医インタビュー形式)


腎臓内科医を選んだ理由や後期研修の場として名古屋大学医学部附属病院を選んで良かった点などについて伺いました。

-こんにちは。よろしくお願いします。

Sさん こんにちは。よろしくお願いします。


ー先生は、現在は後期研修医として働いていらっしゃると伺いました。

Sさん はい。神奈川県の大学を卒業して、初期研修を神奈川県内で受けた後、後期研修医として腎臓内科を選びました。


ー名古屋大学腎臓内科を選んだ理由を教えてください。

Sさん まずは、多臓器との関わりが深い腎臓という臓器に興味を持っていました。膠原病にも興味を持っていたのですが、1つの臓器にしっかりと焦点をあてて医療に取り組んでいくことが、自分の考えに合っていると考えました。また、地元がこちらであるので、地元で働きたいとも考えていました。腎臓内科医として勉強していくことを決めた際に、名古屋大学腎臓内科を選びました。


ー後期研修医としては、まずは専門性を深めるというのが課題になるのでしょうか。

Sさん そうですね。現在の業務は病棟の仕事がメインとなりますので、先生方と相談しながら勉強しています。名大の先生方は、どのような些細なことでも相談にのってくださるので、仕事がとてもやりやすいです。それと多くの先生方の治療方針をうかがえるのも、とても勉強になります。このような環境で勉強できるのは幸運なことだと感じています。


ーご自身のレベルアップのためには環境も大事なのでしょうね。

Sさん はい。大事だと思います。私は運が良かったです(笑) 実は、飛び込みのような形で名大に来ました。それでも快く迎えてくださって感謝しています。


ー雰囲気が明るくて素敵ですよね。

Sさん 先生方が優しくて、相談しやすいです。これは私の感じたことですが、名大は「人を育てる文化」が根付いていると感じました。歴代の先生方がおつくりになった文化だと思いますが、私はその恩恵をありがたく受けています(笑)


ー名大腎臓内科で学んだことを1つあげるとしたらどのようなことですか。

Sさん 大学病院は「臨床、教育、研究」という3つが柱だと理解していますが、先生方が全てに熱心に取り組んでいます。私のような経験がない人間が簡単に音を上げてはいけないと本当に思いました。また、私は臨床にいる時間が長いので、いち早く患者さんの異変に気が付かなくてはならないと考えています。先生方のたくさんある素晴らしい点の1つでも真似出来るようになって、少しでも成長したいですね。


ー後期研修の場としては選んで良かったですか。

Sさん はい。今、腎病理のカンファレンスを毎週やっていますが、自分も週に2例ほど担当しています。そういう勉強の機会をいただいていることもありがたいですね。


ー素晴らしい先生方に囲まれている素晴らしい環境で後期研修をされているのですね。今日はありがとうございました。

Sさん ありがとうございました。


女性医局員から見た魅力

女性医師大歓迎します。女性医師が腎臓内科専門医としてのキャリアを出産・育児の間も継続、もしくは休止後再開できるよう、医局としてできる限りの支援をします。

入局条件
卒後3年

名古屋大学病態内科学講座では卒後3年目12月までに入局をお願いしており、腎臓内科としても関連病院での研修を行っている先生には3年目12月までに入局をお願いしています。関連病院以外で研修を行っている先生は相談させてもらっています。

キャリアプラン

想定されるキャリアプラン
臨床能力を強化するべく、大学病院で臨床研究を。

名古屋大学医学部大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学で4年間研究生活を送ったI医師のお話。

「私はもともと学生の時にポリクリでローテートした腎臓内科を専攻するつもりでいましたが、内科医としての基本をしっかりと身に着けたいという思いから、初期研修先として総合内科研修が可能な病院を選択しました。初期研修を終えたのち、3年間総合内科のスタッフとして勤務し、優秀な先輩や同僚と切磋琢磨しながら、内科学の基本を学びました。その後、別の病院に転勤して腎臓内科のフェローとして2年研鑽を積みました。ずっと臨床でやっていこうと考えていたのですが、当時の腎臓内科の部長から大学院への入学を勧められました。ちょうどそのころ腎臓内科は「臨床研究」のセクションを新たに設立しました。もともと臨床志向であったため、そこに所属することにしました。研究を始めた当初は指導体制が確立していなかったため大変でしたが、様々な領域の臨床情報や検体を集めて、臨床医の頃に抱いていた素朴な疑問に答えるための研究にも取り組めるようになりました。研究に必要な生物統計学や臨床疫学の知識は、臨床研究支援センターの先生方にも多くのことを教えていただきました。名古屋大学の腎臓内科は日本有数の関連病院数を誇り、10年以上蓄積された腎生検検体ライブラリを持っています。また、全国の著名な研究機関との協力関係も結んでおり、研究の機会には恵まれていると思います。それを生かした研究を今後も継続していこうと思っています。」

医学部卒業後、名古屋大学関連病院で臨床研修、大学院を経て現在は地域中核病院スタッフとして活躍しているY先生のお話。

「研修期間中は腎臓内科領域のみならず、膠原病、感染症領域をはじめとして内科全般にわたって幅広く症例を経験することができました。臨床が楽しくて仕方がない日々を送っていたわけですが、大学院入学する頃からは、日常臨床で行っていることが実は曖昧なことが多いということを少しずつ感じるようになり、臨床上のリサーチクエスチョンを解決したいという気持ちがわいてきました。そこで大学院では臨床研究を選択し、目の前の臨床に少しでも役立つようなテーマを掲げて研究に取り組みました。大学院卒業後は、再び市中病院で臨床に没頭していますが、大学院での研究を経験したことによって、臨床の幅が広がったように感じています。これからもリサーチクエスチョンを大切に、目の前の患者さんのより良いアウトカムを目指して臨床・研究を続けていければと思っています。」

基幹病院、大学院での豊富な臨床・研究経験を礎に個人クリニックを開業し地域医療に貢献。

I市でクリニック開業しているH先生のお話。

「2000年に医学部を卒業し、気が付いたら医師17年目。現在I市で開業医として地域住民の方々の健康を守るために日々診療に励んでおります。医学部を卒業後、大学病院・市民病院で2年間の研修を送りました。その後、A病院・名古屋大学医学部附属病院・G病院・K病院と複数の基幹病院で腎臓内科医としての経験をつみ、2015年10月に開業医として新たな道を送っています。総合病院に勤務時代には腎臓内科専門医としての治療を中心にしていましたが、「自分で診れる患者様は自分で診る」をモットーに専門以外の疾患の治療にも積極的に携わるようにしてきました。「自分の専門分野以外の病気は治療できない」では許されない開業医としては、当時の診療経験の積み重ねが現在の自分の糧となっているのだと思います。医師として専門性を極めるのはとても良いことだと思いますが、専門医の基礎となる場所にはかならず学生時代、研修医時代に苦労した経験が存在しているものだと確信しています。開業して2年目となりましたが、今後も総合臨床医として地域貢献ができるかかりつけ医を目指して日々精進していくつもりです。」

海外へ研究留学し、さらにリサーチマインドを磨く。

Beth Israel Deaconess Medical Center and Harvard Medical Schoolに現在留学中のM医師のお話

「私は、医学部卒業後、総合的に全身を診ることができる科ということで、腎臓内科を選択しました。当地方における腎臓内科の位置づけは、腎疾患、透析管理、血圧・体液管理のみならず、糖尿病をはじめとする生活習慣病、感染症、自己免疫疾患、ときには透析のためのシャント作成と多岐にわたり、とても興味深い分野です。腎臓内科入局後は、主に市中病院にて研鑽を積みました。その中で、治療に難渋する症例をとおして、腎疾患の治療の元となる病態についていかに不明な部分が多いことを知りました。そのため、大学院入学に際し、基礎的な実験手法を学べるプロジェクトに参加しました。幸いにも当教室はある一定期間、基礎実験に集中できる環境が整っており、全身性ループスエリテマトーデス(SLE)におけるT細胞の役割をテーマとした論文を発表することができました。その中で、基礎研究を継続していく上での新たな実験手法やコンセプトの獲得の必要性を感じ、研究に一定期間没頭する時間をつくるために、研究留学という道を選択しました。私の上司の共同研究先(SLEを専門としている)へ留学させていただける機会に恵まれ、現在リサーチフェローとして研究のみをする環境に身を置くことができています。異国での地での研究生活は、最初は困難も伴いますが、論文の書き方も含めた研究の進め方には新たな知見も多く、海外とのネットワークをつくる意味でも一つの選択肢になり得ると思います。」

後期研修について

後期研修の概要 入局後の研修期間及び研修先選択の自由度について

*基本原則は医局員の公平性を保つように人事を行っています。

若手医師には複数の病院を経験することを勧めています。いずれのコースを選択した場合でも、3~4年間の腎臓内科専門医研修修了後(卒後7年目)は他の病院に移動して腎臓内科専門医として1~2年間研修することを原則とします。個人の希望や事情のため移動する病院が他の医局員と公平性を欠く場合は留学や帰局時 期が遅れる場合があります。

※ただし、将来研究者をめざす者はなるべく早い時期(6年目以内)に研究が開始できるよう配慮します。その際、他の病院に移動しての研修は大学院修了後に行う可能性があります。 ※腎臓内科のキャリアパスは入局時をもってスタートします。

※本方針は当面弾力的に運用する予定です。

帰局した場合の医員や大学院生の年収

医員:900万円~1,200万円 大学院生:700万円~1,100万円

外勤(アルバイト)の内容・収入の目安

透析クリニック、市民病院での外来・透析管理、産業医活動

一ヶ月の当直回数

大学病院で当直と当番(自宅待機)を併せて月3~4回

非入局での大学病院における後期研修

原則不可

非入局での関連病院における後期研修

原則不可

非入局での臨床大学院コース

原則不可

教育システム 大学院研究コース

(A) 基礎研究早期コース
(B) 基礎研究レギュラーコース
(C) 臨床研修コース
(D) 大学医員コース

関連病院コース

上記がモデルコースとなりますが、個別の事情による相談は可能です。

※現時点でのキャリアパスです。状況に応じて対応しますが、原則としてこれに準じてキャリアパスを進めていきます。

※医員コースの前期赴任は1ー2年および医員は1ー3年となることがあります。

研究体制

研究内容(1) 『脂肪由来間葉系幹細胞による腎疾患治療法開発』

これまで間葉系幹細胞は脂肪・軟骨・骨への分化能に注目が集まってきましたが、最近間葉系幹細胞が免疫調整能を有することが分かってきました。我々は、これまで脂肪由来間葉系幹細胞に注目してきましたが、その理由として臨床的優位性として採取が比較的容易であり、増殖能に優れるという点があります。細胞治療において、間葉系幹細胞を培養する際に添加する血清は微生物・プリオンなどの感染のリスクとなり得るため、細胞増殖能を損なう事なく、血清使用量を可能な限り下げる必要があります。脂肪由来間葉系幹細胞はその優れた増殖能により5%以下(低血清培養脂肪由来幹細胞:LASC)においても20%血清で培養した骨髄由来間葉系幹細胞(高血清培養骨髄由来幹細胞:BM-MSC)と同等の増殖を示します。また、血清濃度を下げて培養することにより、LASCは再生を促進する因子、免疫調整する因子を多く産生するようになります。

急速進行性腎炎は現在も予後不良の腎炎であり、未だにステロイド・シクロフォスファミドといった免疫抑制剤しか有効な治療法がないのが現状であり、これら免疫抑制剤においてしばしば感染や細胞毒性といった副作用を経験します。我々は、LASCを急速進行性腎炎ラットモデルに投与し、腎障害が大幅に改善することを報告しています(2013 JASN)。この他にも、急性腎障害、腹膜炎、創傷治癒に対しても、同様な治療効果を証明しています。この動物実験での成果を臨床応用へとつなげるため、脂肪由来間葉系幹細胞を用いた医師主導治験を2020年より開始しました(NCT04342325)。 さらに脂肪由来間葉系幹細胞の治療効果機序の解明において新たな知見を見出し、さらなる高機能化間葉系幹細胞の作製へと発展させています。

研究内容(2) 『糖タンパク質CD147/Basiginの役割』

糖タンパク質であるCD147/basiginが虚血や自己免疫性疾患に伴う急性腎障害(AKI)の発症から慢性腎疾患(CKD)の進展に関与している事を、これまでに明らかにしました。更に、リンパ球上のCD147/basiginはIL17産生性T細胞の抑制因子としてループス腎炎(LN)の病勢を抑制すること (2015 Arthritis Rheumatol) を証明した基礎的な知見に加え、実際の臨床患者検体を用いて、CD147はAKIやLNにおけるbiomarkerとして有用であるという事もまた報告しています(2014 Lupus, 2016 CEN)。現在、肝臓や腎臓においてピルビン酸や乳酸を利用した細胞のエネルギー恒常性を維持に関するCD147/basiginの役割を探求しています。


研究内容(3) 『生活習慣病に伴う慢性腎臓病の発症・進展メカニズムの解明』

近年、加糖飲料・加工食品に多量に使用されている果糖ブドウ糖液糖(HFCS)の消費は飛躍的に増加しており、果糖(フルクトース)摂取量の増加と、慢性腎臓病の原因となる肥満・高血圧・2型糖尿病罹患率との疫学的相関が示されています。しかし、これらの病態形成における果糖代謝の役割とメカニズムの詳細は明らかとなっていません。果糖は主にフルクトキナーゼ(KHK)により代謝され、そのKHKには2種のアイソフォーム、KHK—C・KHK—Aが同定されています。KHK—Cは主に腎・肝・小腸に、KHK—Aはユビキタスに発現しています。我々はこれまでに、コロラド大学腎臓病高血圧科との共同研究にて、果糖代謝とそれに引き続き産生される尿酸の抑制は肥満・インスリン抵抗性・脂質異常症・NAFLD・老化に伴う腎障害を軽減することを報告しました。現在も当研究室にて、高血圧・糖尿病の病態形成及び合併する腎疾患の発症・進展の抑制を目標とし、果糖・尿酸代謝を中心とした研究を行っています。


『腎疾患に関連するncRNAの探索と核酸医薬による治療法の確立』

近年、次世代シークエンサーの普及でゲノムワイドな遺伝子発現解析が進み、タンパク質に翻訳されないRNA、non-coding RNA (ncRNA)が多数存在すること、その中でも長鎖ncRNA(lncRNA、200塩基以上からなるRNA)は、エピゲノム調整・タンパク/DNA/RNA結合を介して、遺伝子発現制御に直接関わっていることが示されてきていますが、腎疾患に関与するncRNAの詳細は解明されていません。そこで我々は、これらのncRNAの探索を行っています。また、得られた標的に対する治療法として核酸医薬を用いるべく、名古屋大学工学部にて開発されたより安定性の高い人工核酸の臨床応用に向けた共同研究を行っています。

研究内容(4) 『エクソソームを用いた新規バイオマーカーの探索』

腎疾患の診断には、腎生検という強力なツールがありますが、それとは別に我々の最終的な目的は、リアルタイムで腎臓に何が起こっているかを知ることにあります。  エクソソームとは、ほぼ全ての細胞が放出する30-150nmの、脂質二重膜で覆われた細胞外小胞です。その由来細胞の蛋白、核酸を含むことから、特に癌領域において将来大きな可能性を持つバイオマーカーとして注目されています。しかし一方で、ほぼ全ての細胞が放出するため、血液全体からエクソソームを回収した際、腎臓で起きている微細な変化を捉えるには、どうしても感度が落ちることになってしまいます。そこで我々は、腎臓由来のエクソソームを選択的に回収する技術を開発し、新たな腎疾患のバイオマーカーとして、診断、治療効果判定、また健診での検尿異常がみられた方の二次検査として役立てる研究をしています。将来的には、腎臓以外由来のエクソソームにも注目し、他の臓器の疾患、移植した臓器の状態の判定に役立てたいと考えています。


『マイクロRNA等を用いた核酸医薬の開発』

核酸医薬は、現在数多く開発、臨床応用されている抗体医薬に続く分子標的医薬として期待されています。その核酸医薬にも様々な種類がありますが、我々は比較的新しく発見された、マイクロRNAに着目しています。マイクロRNAは、他の人工核酸と異なり、本来生体内に備わった核酸であり、遺伝子発現を微調節するといった特徴があります。また10年ほど前に、生体内において、ある細胞が産生したマイクロRNAが、前述のエクソソームの媒介によって、隣接する、或いは遠隔に存在する細胞にも伝播していることが発見されました。さらに、人が食事で摂取する植物由来のマイクロRNAも、生体内に影響をあたえるという報告もあります。つまりマイクロRNAは、本来生体内外で、行き来していることになります。

 我々は、致死率が高く臨床的にも問題となっている敗血症性急性腎障害において、その発症に中心的な役割を果たすシグナルのカスケードを抑制する効果を持つマイクロRNAに注目し、適切なドラッグデリバリーシステムを用いて投与することで、障害を軽減する試みに取り組んでおり、大きな成果を得ています。また、生体本来のマイクロRNAに加え、より安定かつ効果の高い人工核酸技術を用いて合成したマイクロRNAに関しても、名古屋大学工学部との連携において研究を進めています。今後は対象とする疾患を広げていくとともに、病態に合わせてマイクロRNAを選択するなど、プレシジョンメメディシン(精密医療)へ繋げていきたいと考えています。

研究内容(5) 『線維化関連分子 Meflin の腎臓における機能解析』

臓器の線維化は創傷治癒における一つの行程であり、あらゆる臓器において認められる組織の変化です。慢性的な組織障害にも付随してくる病態であり、その重症度が予後を規定する事が分かっています。腎臓でも原疾患に関わらず、ステージの進行した慢性腎臓病における腎線維化がそれに当たります。線維化には筋線維芽細胞が大きな役割を果たしていますが、実は筋線維芽細胞の本態や起源はまだ未確定で諸説あり、尿細管上皮細胞・末梢血前駆細胞・骨髄幹細胞・血管内皮細胞・周皮細胞など複数の報告があります。間葉系幹細胞(Mesenchymal stem/stromal cell; 以下MSC)もその一つの候補ですが、我々はMSCと腎臓線維化との関係に着目して研究を進めてきました。

そんな中、私達は最近MSCにもっとも特異的なマーカー分子としてMeflin(メフリン)を同定しました(特願2015-153712、Maeda et al, Sci Rep, 2016)。このMeflinに着目することによりMSC と腎臓線維化の関わりを探求しています。この一年でMeflinが心臓の線維化において重要な役割を果たす事や(Hara et al, Circ Res,2019)、膵臓癌においても癌の進展を抑える可能性を示しています(Mizutani et al, Cancer Res,2019)。腎臓においてもMeflinは類似の働きをしていると考えており、腎臓ではMeflinが間質ならびに糸球体血管極に特異的に分布し、種々のマウス疾患モデルにおいて炎症部位や線維化部位に集積する事を確認しています。私たちはこの「Meflin陽性MSC」が炎症部位に集積し組織修復に寄与する一方で、病態の経過とともにMeflin陰性・α-SMA陽性筋線維芽細胞へ分化し腎間質の線維化に関与しているのではないかと考え、研究を進めています。

研究内容(6) 『生体顕微鏡を使用した腎臓動態学』

17世紀後半にオランダのアントニー・レーウェンフックが単式顕微鏡の開発し、イギリスのロバート・フックがコルク組織を観察し、それが蜂の巣の房室のごとく小さな部屋の集まりに見えたことから、小部屋(cell)と命名しました。生物学の「cell(細胞)」という言葉は、この観察をきっかけに生まれました。当初の顕微鏡は形態の観察のみでしたが、直接細胞を観察することで生物学は飛躍的に発展しました。その後、形態評価に加え機能評価も可能となる蛍光顕微鏡、細かな構造も観察可能な電子顕微鏡へと発展してきました。現在では、顕微鏡技術の進歩により直接生きたまま小動物の臓器を観察することが可能となり、動画として臓器血流や細胞を観察することができます。我々は、生体顕微鏡技術を使用して動態学として新たな角度から研究を進めています(2020 Nature Communications, 2018 Cell Stem Cell, 2017 JCI, 2015 JASN)。これまでの静止画から得られた暗黙知や仮説を、動態学として直接腎臓を観察することで証明しています。

研究内容(7) 『膜性腎症の診断法確立、病態機序解明、臨床実態調査』

ネフローゼ症候群の代表的な原疾患のひとつである一次性膜性腎症は、腎糸球体係蹄壁の上皮細胞(ポドサイト)下に免疫複合体が沈着することで起こる免疫性糸球体腎炎のひとつで、免疫複合体沈着によるポドサイト障害により大量のタンパク質が尿中へ漏出します。一次性膜性腎症の原因抗原は長らく不明でしたが、2009年に米国でPhospholipase A2 receptor(PLA2R)が発見され、一次性膜性腎症の診断や病態理解は急速に進歩し始めました。我々は本邦で最も早くPLA2R抗体研究プロジェクトを立ち上げ、診断法確立、病待機所解明および臨床実態解明に取り組んで来ました。今では、血中の抗PLA2R抗体検査により一次性膜性腎症の鑑別だけでなく治療効果の早期判定や再発予測も可能になりつつあります。我々は一次性膜性腎症患者の抗PLA2R抗体陽性率が諸外国の75%以上に比べて本邦では50%と低く、原因抗原が判らない特発性が多いことを初めて解明し(下図、2015 Clin Exp Nephrol)、臨床経過との関連についても検討しました(2015 Clin Exp Nephrol, 2016 Cas Rep Nephrol.)。

研究内容(8) 『ポドサイト障害の不可逆化機構の解明』

腎糸球体の外側を覆っている腎糸球体上皮細胞(ポドサイト)は、糸球体濾過において重要な役割を担っています。ポドサイトは高度に分化した細胞であり、基本的には再生しないとされているため、その脱落は癒着から分節性硬化という形に進展し、最終的には慢性腎不全の要因となります。ポドサイト障害はネフローゼ症候群の一種である、微小変化型ネフローゼ症候群のように可逆性に改善するものもあれば、不可逆化して前述のポドサイトの脱落に進展する病態もあります。我々は、この不可逆化を起こす要因について、網羅的解析も含め研究を進めています。

研究内容(9) 『急性腎障害から慢性腎臓病への進展抑制メカニズムの解明』

急性腎障害(AKI)は従来、一過性可逆性の腎障害と捉えられてきましたが、腎機能が回復した場合にも長期観察後に慢性腎臓病(CKD)のリスクになるというエビデンスが示され、AKIからCKDへの進展が注目されています。我々は以下3つのテーマに沿って、AKI to CKD transitionのメカニズム解明と新規治療法の開発を目指しています。
i)細胞エネルギー代謝:腎尿細管細胞のエネルギー源は解糖系以外のケトン体・乳酸・アミノ酸などが主体です。別項のベイシジン(Bsg)の糖・脂質代謝研究ノウハウを用いて、AKI時の尿細管細胞のエネルギー代謝と細胞老化を、特にケトン体・乳酸を中心に探求しています。
ii)糖鎖硫酸転移酵素欠損マウス:AKI to CKD transitionにおいて炎症は大きな役割を果たすとされています。GlcNAc6STは、リンパ球Lセレクチンのリガンドである血管内皮細胞上のPeripheral Node Addressin(PNAd)の糖鎖硫酸基転移酵素で、末梢リンパ節でのリンパ球ホーミングに必須の酵素です。名古屋大学第一生化学教室との共同研究で、GlcNAc6ST-1,2,3,4のシングル・ダブル・トリプル欠損マウスを用いて、AKI後のリンパ球の免疫応答の果たす役割を解明しています。
iii)Heat stressによる腎障害:中央アメリカを中心に原因不明のCKD患者が増加しており、Mesoamerican Nephropathyとして報告されています。原因としてHeat stressによる軽度のAKI類似病態の繰り返しがCKDに進展するという仮説が考えられています。Heat stressによる腎障害は、地球温暖化に伴い日本も含め全地球規模の問題になる可能性があります。我々はコロラド大学腎臓内科との共同研究でHeat stressの動物実験モデルを構築しました。アメリカ・ヨーロッパ・中央アメリカの臨床研究チームと協力し、動物実験による病態・分子メカニズムの解明に取り組んでいます。

研究内容(10) 『iPS細胞を用いた新規治療法の開発』

2007年にヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製が報告されて以来、再生医療を初めとして、様々な難治性疾患に対する治療法開発への期待が高まっています。ヒトiPS細胞に期待される治療開発戦略の主だったものは、作成した細胞を移植する細胞治療と、疾患を有する方から作製した疾患特異的iPS細胞を用いた疾患再現です。当教室内ではまだ立ち上がったばかりのグループではありますが、これまでの間葉系幹細胞で得られた知見などを踏まえて、難治性の腎疾患に対して、ヒトiPS細胞を用いて、細胞治療や、疾患再現を行っていきます。そして最終的には機能する腎臓を作製したいと考えています。ステロイドや免疫抑制剤、これらが有効でなければ徐々に腎機能は悪化し透析、といった現在の治療に、全く新しい選択肢を加えるべく頑張っています。

 
研究内容(11)臨床研究 『名古屋腎臓病研究コンソーシアム』

腎疾患および関連疾患の患者を広く登録する腎疾患レジストリーシステムを構築し、患者登録と検体収集を行うことを目的とし、2011年より稼働していたN-KDR(名古屋大学腎臓病レジストリー)を引き継ぐ新しい包括的な研究、名古屋腎臓病研究コンソーシアム(NNRC:Nagoya Nephrology Research Consortium)を立ち上げました。現在までに「ループス腎炎における糸球体炎症と尿中CD11b」(2019 Kidney Int)、「微小変化型ネフローゼ症候群における短期ステロイド療法」(2019 Am J Nephrol)、「IgA腎症の腎予後における日本組織学的分類とオックスフォード分類の比較」(2017 Clin Exp nephrol)、「喫煙は特発性膜性腎症進行への危険因子である」「ANCA関連血管炎患者における抗体価の上昇と再燃」(2015 J Rheumatol)など、主要な腎疾患において様々な角度から新しい知見を報告しています。


『遺伝子解析研究』

遺伝子診断(一塩基多型)による生活習慣病のリスク評価を目的としています。個人の遺伝的体質(遺伝情報)と、生活習慣の組み合わせ解析を行うことで、体質ごとに異なる生活習慣病のリスクを明らかにします。研究対象者の健診情報、生活習慣情報に関する自記式調査票、生活習慣病に関連した遺伝子多型のタイピング情報、食事データを収集し、分析し、腎障害の進行予防に関する研究を遂行しています。現在まで、「日本人男性労働者における腎機能と遺伝子多型」(2017 PLos One)、「塩分摂取量と高血圧に関する遺伝子多型」(2017 Clin Exp nephrol)などを報告しています。


『介入試験』

名古屋大学腎臓内科が研究代表機関となり、名古屋大学医学部附属病院通院中の患者さんと名古屋大学関連病院、全国の大学病院などと共同で、様々な臨床介入試験を遂行しています。「糖尿病性腎症患者における利尿剤スピロノラクトンのアルブミン尿低下効果」(2015 Clin Exp nephrol)、「高尿酸血症治療薬トピロキソスタットのアルブミン尿低下効果」(2018 Nephrology)など、腎疾患におけるエビデンス創出を行っています。


『長時間透析療法の効果を検証する研究』

生命を維持するのに必要な腎臓の機能が損なわれた状態を末期腎不全と呼びますが、そのような状況においては血液透析、腹膜透析、腎移植が必要です。こうした治療は「腎代替療法」とひとまとめにして呼びますが、特に我が国では血液透析が主な腎代替療法です。血液透析は一般的には1回約4時間を週3回実施しますが、健康な状態であったときの腎臓機能を100とすると、15程度しか無い状態で生活を送らねばなりません。それでも多くの患者さんは日常生活を健康な人と同じように送ることができますが、動脈硬化は健康な人に比べて進行しやすく、高齢化も相まって、低栄養状態に陥る患者さんの数が近年急激に増えてきています。

そのような状況を打開する有力な方法の1つとして、1回6~8時間を週3~4回実施する「長時間透析療法」という腎代替療法に我々は着目しています。長期間の血液透析を経験して低栄養が徐々に進行したり、動脈硬化が進行したりすることによって心臓血管病を合併した患者さんが、長時間透析療法を受けることによって徐々に元気を取り戻すことがあります。そのように元気を取り戻すメカニズムとして、炎症の改善、ミネラルバランスの是正などの要素に着目しながら、従来の透析法との違いを明らかにすることを目的とした研究を行っています。


『尿毒症による免疫不全の慢性腎臓病予後への影響』

慢性腎臓病患者においては心血管合併症、感染症の発症が多く若年死亡率の上昇に関与しています。それらの患者には栄養障害(PEW)、慢性炎症がこれらの合併症に深く寄与していることがわかっています。尿毒症による免疫系の不調と炎症や感染、動脈硬化、心血管合併症の関与についての研究成果から、我々は、尿毒症による免疫系異常は抑制と活性化が同時に存在し、末期腎不全患者は、易感染性と、慢性炎症が持続する特殊な環境にあるという仮説を立てています。

現在、慢性腎臓病患者の予後を改善する新規治療戦略を構築するため、約300名の透析患者を登録した前向き観察研究を行っています。この研究の目的は日本人末期腎不全患者の免疫機能不全と感染症、心血管合併症、死亡に関する危険因子を明らかにすることです。この研究の特徴は、遺伝子解析、遺伝子発現制御因子、環境の違いに着目しこれら危険因子を解明することにあるます。さらに細胞老化についても解析しています。今までに、NISE研究より、① DNAの高メチル化と炎症 (2012 Nephron Extra), ②テロメア消耗と延長(2016 Blood Purification), ③好中球リンパ球比と心血管疾患(2015 Clin Exp Nephrol), ④高フェリチン、栄養障害と感染症入院(2016 Blood Purification)を国際誌に報告しています。

研究内容(12)腹膜透析 『腹膜劣化・被嚢性腹膜硬化症の病態解明および治療法の開発』

腹膜透析(PD:Peritoneal Dialysis)は残腎機能の保持に優れた非常に有用な腎代替療法です。しかしながら、透析継続に伴い、自己の生体膜である腹膜の劣化が問題となります。具体的には、持続的な透析液の曝露や腹膜炎の合併により腹膜の炎症が増強されます。腹膜中皮細胞層の変性や腹膜線維化・血管新生などの形態学的変化が起こり、溶質輸送亢進・限外ろ過不全といった腹膜機能低下が問題となります。さらに、長期PDによる腹膜劣化の最終段階として、重篤な腸閉塞病態を示す被嚢性腹膜硬化症(EPS:Encapsulating peritoneal sclerosis)の発症が問題となります。我々は、それらの問題の病態解明、新規治療法の開発を目指し、日々研究を行なっています。
i)細胞エネルギー代謝:腎尿細管細胞のエネルギー源は解糖系以外のケトン体・乳酸・アミノ酸などが主体です。別項のベイシジン(Bsg)の糖・脂質代謝研究ノウハウを用いて、AKI時の尿細管細胞のエネルギー代謝と細胞老化を、特にケトン体・乳酸を中心に探求しています。
現在、炎症については、macrophage, 補体に注目し、塩の摂取がTonEBP(Tonicity-responsive enhancer binding protein)を介して腹膜や心臓でのmacrophage浸潤を促進するメカニズムを明らかにしました(Sakata F, et al. Lab Invest. 2017)。また、腹膜の炎症修復過程においてAIM(Apoptosis inhibitor of macrophage)が重要な役割を担うことを報告しました(Tomita T, et al. Sci Rep. 2017)。 補体に関してはラット腹膜中皮細胞層に膜補体制御因子が高発現し、その働きを失活させると腹膜障害が惹起されることを報告しました。(Mizuno M, et al. J Immunol.2009; Mizuno T, et al. Nephrol Dial Transplant. 2011)。また、ヒトの腹膜中皮細胞上の膜補体制御因子(CD55)が、腹膜輸送機能と関連することも報告しています。(Sei Y, et al. Mol Immunol. 2015)。
線維化にはTGF-, CTGF, mineralocorticoid receptor、除水不全に対してはVEGFを介したリンパ管新生をターゲットに継続的な研究を行い、その最新の成果として、腹膜線維化における血管新生のメカニズム(TGF-β―VEGF-A pathway)を明らかにしました。(Kariya T, et al. Am J Physiol Renal Physiol. 2017)。
PD患者の最も重篤な合併症EPSについては、ヒト検体の検討により、フィブリン沈着と腹膜血管病変(内腔狭窄)がEPS進展に関連することを報告しました。(Tawada M, et al. PLoS One. 2016)。また、EPS動物モデルを作成し、抗補体薬など治療法の開発も行なっております。

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